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かこさとし 『秋』
かこさとしさんと言えば、有名な作品がたくさんありますね。ざっとあげるだけでも、だるまちゃんシリーズや、『からすのパン屋さん』など次から次へと出てきます。でも、この本は少し特別です。かこさんが亡くなられた後に発見された、手書きの紙芝居だからです。
絵本でも述べられていましたが、かこさんは、季節では秋が好きだったそうです。空気が澄んでいたり、おいしい果物が食べられるからでした。でも、とてもいやな秋もあったのです。それは昭和19年。戦争が終わる1年前のこと。かこさんは18歳でした。
かこさんは、はたらいていた工場で盲腸炎(今でいう虫垂炎)にかかりました。そこで、お医者さんに手術してもらい、入院することになります。病室にはつきそいのおばさんがいました。ちょっと関西弁でいうイケズ(意地悪)な人です。
ある日、手術をしてくれた「おでこの先生」が戦争に行くことになります。「先生、どうかお元気でいてください」という手紙をわたしました。ところが、秋のある日、かこさんが病院から空を見ると日本軍の飛行機が墜落させられました。そこからパイロットが飛び降りたのですが、パラシュートが開きません。結局、そのパイロットは亡くなってしまいます。さらに、悲しいニュースは続き、イケズなおばあさんの悲しい秘密が分かったり・・・。
田尻徳風保育園では、この季節には戦争と平和を考えます。かこさんから私たちへのメッセージを、この絵本からぜひ聞き取り、継承していきたいものですね。
2023年8月8日
本の紹介

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『命のひととき 四季の中で自然を味わう』
田尻徳風保育園では、卒園や修了記念に絵本を全園児にプレゼントしています。
今年は『命のひととき 四季の中で自然を味わう』にしました。息をのむ美しさ。この絵本にはその形容しか思いつきません。
少々高いですが、一生付き合える絵本を、子ども達にプレゼントしました。
みんな、喜んで読んでくれていたら、嬉しいですね。
2023年4月4日
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戦争をやめた人たち
作・絵 鈴木 まもる
発行所 あすなろ書房副題は「1914年のクリスマス休戦」です。第一次世界大戦の時のお話です。第一次大戦は、第二次大戦より日本人にとっては何故か印象がうすいですよね。実は、大きな意味がある戦争だったのですが、その中での有名なエピソードがもとになっています。
1914年12月24日の出来事です。フランスやベルギーに攻め込むドイツ軍と、イギリス軍の最前線。もちろん両軍とも、一日中ずっと銃を打ちあい、疲れ果てていました。イギリス軍の兵士が言います。「いえにかえりたいなあ」「いつになるやら」「かえったら、またみんなでサッカーしたいなあ」。当初は、すぐに終わると思われていた戦いでしたが、中々終わりませんでした。
そのような時に「なにかきこえる。なんの音だろう」と、若い兵士が顔をだしました。すると、向こうのドイツ軍から聞こえる歌でした。そしてその歌は「きよし このよる」でした。そう、今日はクリスマスイブです!「ドイツにもクリスマスがあるんだな」「いっしょに歌おうか」。そして両軍の合唱が始まったのです。そして夜が明けた25日。ドイツ軍の兵士が出てきました。しかし、その手には銃を持っていなかったのです。それに対応しイギリス兵も出ていくと、さぁ奇跡の始まりです!
戦争を始めるのは簡単だが、終わりにするのは難しい、とよく言われます。その難しさを超えるヒントがここに描かれています。今こそ、必読!
2022年8月2日
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ボクサー
作 ハサン・ムーサヴィー
訳 愛甲 恵子
発行所 トップスタジオHR珍しいイランの絵本です。イランと聞いても私たちは中々イメージがわきません。だからこそ、こうやって絵本を通じて出会うことがうれしいですよね。ページを開くといきなりボクサーが打っています。「ボクサーは、打って、打って、打った。昼も、夜も、何年も」。ボクサーは来る日も、来る日も打ち続けました。「打って、打って、すべてを打った」。その相手は草原であり、雲であり、木など様々。そのうち、父の形見であり、母のハートの刺繍がぬいつけてある大切なグローブは、だんだんと色あせていきました。それでもボクサーは打ち続けます。岩を砕き、大波を引き起こし、全ての物を打ち続けたのです。そしてある時、気づくのです。もう打つ物が何もない。ひとりぼっちになっていることに。ボクサーは思います。「どうして父さんはボクシングを教えてくれたんだろう」。「父さんのこぶしをうごかしていたのは、なんだったのか」。その答えを見つけた時、ボクサーに大きな変化が表れたのでした・・・。色彩の豊かさがすごい!外国の絵本は、日本のとまた風合いが違うから面白いですね。ストーリーも劇的ではありませんが、考えさせられます。その拳を何のために使うのか?あなたをうごかすものは何?ボクサーなのに人間の対戦相手が出ないのも意味ありげ。ぜひ!の一冊です。2022年8月2日
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ぼくはいしころ
まずは皆さんを驚かせましょう。、この絵本を手に取られたら、表紙をじーっとご覧になってください。猫の絵が描かれてるよね・・・と思われるかもしれません。絵?ちがうんです。作者の坂本さんは紙版画の作家です。そう、この猫ちゃんは紙版画なのです!すごい!ふわっふわっな毛並みにさわりたくなります。写真でお見せできないのが残念!
物語はノラネコの独白ですすめられます。誰も自分の事を気にとめてくれない現実を「いしころ」と同じだと嘆きます。「ぼくも きづけば ポツンとひとり。じっと だまって ここにいる。
だれも それを きにとめない。このいしころと おなじ」昼間は誰にも見つからないように、声をひそめてすごす。気持ちを出すことなく、それをじっと体の奥底にしまっています。
「ぜんぶ からだの おくに ある。だまっていれば ぼくらは へいわだ。 なんにも さみしいことはない。ねえ いしころ そうだろう?」
そんな時でした。ノラネコに「こんばんは」と誰かの声がかかったのは。この時からノラネコは変わっていくのです・・・。
わかる!という人多いかもしれません。ノラネコの描写を通じ、そこに描かれているのは、私達の姿かも知れません。その時に、誰かに一言声をかけられる。それだけで、自分の事を少し大切に思える。ノラネコから家族へ、いしころから生命へ。何度も読みたくなる一冊です!ぜひご一読を。