本の紹介
字のないはがき
原作 向田邦子
文 角田光代
絵 西加奈子
発行所 小学館
文 角田光代
絵 西加奈子
発行所 小学館
この絵本は作家の向田邦子さんのエッセイが原作です。そのすばらしい原作を角田光代さん、西加奈子さんという、人気作家のお二人が絵本にしてくれました
太平洋戦争の頃のお話です。戦争末期になり、空襲が激しくなりました。空襲から逃れるために、「わたし」(=向田さん)の「ちいさないもうと」も、疎開することになりました。お母さんは「たくさんのはだぎをぬって、そのいちまいいちまいに、なふだを」ぬいつけました。お父さんは、たくさんのはがきを準備して、宛名には自分の住所と名前を書きました。
お父さんは「ちいさないもうと」に言います。「げんきな日は、はがきに まるをかいて、まいにち いちまいずつ ポストにいれなさい」と。まだ、字が書けなかったのですね 一週間後、「おおきな おおきな あかえんぴつのまる」が書かれたはがきが届きます。しかし家族が安心したのも束の間。次の日からは、急にまるは小さくなり、黒鉛筆で書かれています。まるは毎日小さくなっていく中、とうとう「ばつ」がはがきに書かれます。そして、ばつのはがきも来なくなり・・・
この絵本は、文章もいいのですが、何より絵の構成が素晴らしいのです。読んだら分かりますが、人物の表情は一度も出てきません。だからこそ、私達の想像力がかきたてられるのです。母親の思い。妹の状況。そして「ちいさないもうと」を抱きしめた父親の気持ち。それが表情を描かなくても、十分に分かるのですね。
戦後、妹のはがきを見ることはなかったとあります。けれど、はがきは無くなったのではないでしょう。そのはがきは、この絵本を読む私たちの心に届いているのではないでしょうか。
2019年8月23日